HASHIGUCHI George
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| 書評 | |
| 『対話の教室』 ●8/9付け朝日新聞「本の隙間」コーナーで取り上げられました。(書評:重松清氏) ●9/17付け朝日新聞夕刊「テーブルコーナー」で取り上げられました。 『17歳の軌跡』 ・「怖ろしい試み」 長谷部浩 (『文藝界』2001年1月号掲載) 橋口譲二の『17歳の地図』が刊行されたのは八八年四月だった。この本を手にしたときの衝撃は、今もありありとおぼえている。バブル期の日本列島を北海道から沖縄まで、橋口は一〇二人の17歳をたずね歩いて、写真を撮り、話を聞いた。彼らは私の知らない町や村にすんでいる。おそらくは、彼らと出会うことはない。それにもかかわらず、私の分身があたかも列島のすみずみにばらまかれている錯覚に陥ったのだった。「大人でも子供でもない」17歳は、カメラの前に怯える小動物に見えた。彼らのほとんどは、生まれ落ちた地域のなかでたったひとりで立っていた。傷つきやすいたましいが、一冊の本にぎっしりと詰まっていた。 二〇〇〇年に出版された『17歳の軌跡』は、『17歳の地図』から十年後の再会の記録である。九七年、橋口はあらためて写真集に登場してくれた彼ら全員に年賀状を書いた。「今、どうしていますか?」 写真家の問いかけに、答えてきてくれた人のなかからの三八人に会うために、ふたたび列島を旅した。そこで行われたのは、「前回同様、僕は共通質問の紙を用意し、テープレコーダーをテーブルの上に置き、マイクを彼らの襟元に挟む」取材の儀式だった。「十数年ぶりの再会は、懐かしいという言葉では形容しがたい何かが互いの間にはあった。会った瞬間に交わる視線は、ある緊張感と同時に甘ずっぱい感情を含み、出会ってから今日まで、僕らが互いの存在を意識しあって生きてきたということを十分すぎるぐらい物語っていた」 インタビューをたどる限り、四九年生まれ、五十一歳の橋口は彼らの理解者の姿勢を保っている。しかし、彼らからも「橋口さん、痩せましたね」との気遣いのことばが聞かれる。二者の関係は、この十年で急速に縮まっているのがわかる。橋口もまた対等の大人としてじぶんじしんの不安をもらす場面もある。また、彼らの生き方や意見に違和感を感じるとき、苛立ちがこめられた反論も口にする。一冊の本が持っている潜在的なちからが、これほどまでに発揮され、しかもその報告がなされた例を私は寡聞にして知らない。 そこでは、視線の交錯とともに、お互いの値踏みが行われている。『17歳の軌跡』が、タイムカプセルとして十分刺激的なのは、ここで試されているのは、取材者としての橋口の過ごした十年だからだ。「あなたは、どこでどう生きていましたか?」という掲げた質問は、鋭い刃でじぶんじしんに返ってくる。これほど怖ろしい試みを実行に移した勇気に敬服する。 語られるのは、彼らがすごしたこの十年と近況、そして未来である。本書の中でもっとも安定し、その反面、退屈な章となっているのは、工藤夕貴を現在彼女がすむロサンゼルスでインタビューした部分である。女優がこころを許したインタビュアーに答える。工藤は今、答えるべきことを橋口の作家性に対する尊敬をこめてクレバーに語っている。この関係性を逸脱しない。工藤にとっては、いささか特別ではあるにしても、八八年の『17歳の地図』は、かつて受けた取材のひとつにすぎないのだ。 それに対して、多くの”27歳”にとっては、今回のインタビューが事件となているのがわかる。彼らの多くはこれを最後にもう取材されることはないのを知っている。もはや小動物ではなく、狩りもするようになった大人たちは、ありのままの自分を落ち着いた態度で記録にとどめる方向を選んだ。この奇妙なまでの慎重さが印象に残った。17歳のじぶんの姿が、図書館に納められた写真集に残っている人生を彼らは生きた。その影響力と自分との関係を、この十年で彼らは学んだかに見える。また、橋口による風景写真がしみわたる。それは旅のさなかに足をとめた橋口の心境を物語っている。 ひとつの舞台を踏んだ一〇二人の共演者たち。少なくとも彼らは、周囲にいる友人たちのほかにも、同世代の他者が日本列島にいることを意識のどこかにおきながら日常を過ごしてきた。この本の背景に沈む不在の人々が、私にはいよいよ重く感じられた。 |
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